製造現場のデータや設備データを取り込み、日立独自の機械学習を用いて解析をおこない、設備・装置、工程の異常を高い精度で早期に検知する予兆・診断システム「BD-CUBE」。2017年の発売以来、高精度な検知と、使いやすいユーザーインターフェースで多くの製造業のお客さまに導入いただいています。今回は、2020年に石油精製業のお客さまに導入いただいたプロジェクトを紹介します。
多くの製造現場において重要な装置である大中規模のコンプレッサー。一度止まれば、プラントの運転・生産に大きく影響するため、止まってはいけないものの一つです。今回の石油精製業のお客さまでも大型のコンプレッサーが稼働しており、日常のメンテナンスにも慎重に気を配られていました。ただ、今後、人手が不足したり、熟練のプラント管理者が減った場合に、故障の予兆に気づけなくなる危機感から私たち日立ハイテクソリューションズに相談をいただきました。
「お客さまからいただいたテーマは、コンプレッサー内の「軸受け」という重要パーツの異常の解析でした。異常が発生したときのデータをお客さまがおもちだったため、ガスの流量、圧力といったプロセスデータ、振動データ、加速度データなど、約60個のデータをいただいて解析に着手しました」(鈴木)。
データの種類は多ければ多いほうが良いと思われがちですが、実は、対象となる設備に関係のないデータまでが含まれた状態で学習や解析を進めると、精度の低いモデルが出来上がってしまいます。そこで関連性の低いセンサーを外す「センサー選定」が重要になります。
「本当に役立つセンサーはどれなのかの判断は難しいのですが、「BD-CUBE」には、オプション機能として、互いの関連度合いを見ながら解析するセンサーを自動的に絞り込む「センサースクリーニングツール」があります。これを使ってセンサーを30個に絞ることで、精度の高いモデルづくりを速やかに容易に進めることができました」(鈴木)。
「BD-CUBE」で30個のセンサーデータの解析をおこなった結果、ターゲットとしていた「軸受け」周辺のセンサーから故障の予兆が検知できることは確かめられました。しかし、それ以上に、「BD-CUBE」がコンプレッサーとして適切な範囲のモデルを構築した結果、センサーを絞り込むことで、「軸受け」周辺とは別の「ストレーナー」という部分に異常が起こっていることを突き止めます。
「監視・制御システムのアラーム発報の約2カ月前に、ストレーナーの異常が起きていることを、副産物的に正確に検知できたのです。こういう事象も出ていますが、これも異常ではないでしょうかとお客さまに確認したところ、お客さまもまだ気づいておられなかった事象で、非常に高い評価をいただくことができました」。(鈴木)
お客さまにとってコンプレッサーの突発的な故障は工場全体に影響し、もし操業が停止してしまえば、1日数千万円、場合によっては億単位で損失が発生してしまいます。今回の「BD-CUBE」による予兆の検知により、早期メンテナンスが実現することで、突発故障発生時と比較してどのくらいの損失回避が可能になるかを算出すると、それは10年で1.1億円という数字に。「BD-CUBE」導入の大きなメリットが確認できました。
「事前の準備ができれば、その分、故障の大きさも小さくでき、停止する時間も短くできることがわかり、大きなメリットをお客さまに感じていただくことができました。実は10年で1.1億円という数字は、弊社ではなく、お客さまが算出されたものです。より現実感あるものとして、そのコストメリットを受け止めていただけると思います。
使いやすさと、未知の異常も検知できる解析手法、またお客さまと共に課題に向き合う日立ハイテクソリューションズの体制を評価いただき、「BD-CUBE」を採用いただきました。将来的に解析するセンサー点数を拡張していきたいというご要望もいただいています」(坂野)。
「BD-CUBE」は異常データがなくても、通常時の正常データがあれば学習モデルを作成して解析することができます。いつもの状態を学習させ、いつもと違う挙動を異常予兆として検知する技術になります。解析知識のない方でもクリック操作のみでデータの学習モデル作成から解析までおこなうことができます。まずはスモールスタートで一つの設備に導入し、そのメリットを見定め、解析できるセンサー数を増やしていくことや、隣接するプラントにも入れていくといった活用が増えています。
「日立ハイテクソリューションズはITとOTの橋渡しが得意です。製造現場のセンサーや監視システムも知っているため、お客さまからは話がしやすいと評価をいただいています。営業拠点も各工業地帯の最寄りにあるため、お気軽にご相談いただきたいと思います」(坂野)。